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HPVワクチン「がん87%減」は誇大な宣伝

HPVワクチン「がん87%減」は誇大な宣伝

 HPVワクチンのがん予防効果について、最近、新聞やテレビなどが、ランセットに掲載されたFalcaroらの論文を引用して「英国の大規模疫学研究で、12-13歳でHPVワクチンを接種した人の子宮頸がんが87%減少した」と報じています。

 HPVワクチンは子宮頸がん予防の目的で開発されたワクチンですが、承認は子宮頸がんになる前の異形成(CIN)の予防効果に基づいて行われています。

 そのため、厚労省のリーフレットでも「HPVワクチンは2006年に欧米で生まれ、使われ始めた比較的新しいワクチンであり、がんそのものを予防する効果を示す報告はまだ少ないため、現段階では証明されたとはいえませんが、子宮頸がんのほとんどは異形成を経由して発生することを踏まえると、最終的に子宮頸がんを予防できることが期待されます。」としか記載されていません。

 それが、このFalcaroらの論文をもって「HPVワクチンで子宮頸がんの約9割が防げると証明できた」といえるようになったのでしょうか?

全体の2.5%のデータで実証されたとするのは言い過ぎ

  結論から言うと、これは言い過ぎです。この論文がいう「がんが87%減少した」というのは、「20歳から24.5歳までの若い女性のがん発生を比較にしたもの」だからです。

 この研究では、イングランドの女性を生年月日で「出生コホート」と呼ばれる集団に分け、2006年1月1日から2019年6月30日の研究期間中に子宮頸がんと診断された人の数を比較しています。

 「がんが87%減少した」というのは、HPVワクチン導入前の「コホート4」と、12~13歳でHPVワクチンを1回以上接種した人が88.7%いる「コホート7」の間で、20~24.5 歳までの10万人年あたりのがん罹患率(発がんリスク)を比較した結果です。

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表1 論文Table2からの抜粋


 たしかに子宮頸がん発がんリスクは減っていますが、子宮頸がんの罹患者数が増えるのは25歳以降であり、25歳未満の子宮頸がん患者はごく少数です。

 下のグラフ(図1)は、イングランドの最新(2017年)のがん登録データですが、この年に子宮頸がんと診断された20歳以上25歳未満の人は赤枠で囲んだ65人で、全体の2.5%です。

 全体のわずか2.5%のデータをもって「HPVワクチンの高いがん予防効果が実証された」というのはあきらかに言い過ぎです。

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図1 イングランドがん登録において2017年に子宮頸がんと診断された患者数(年齢階級別)

出典 イングランドがん登録データ

 

型置換=タイプリプレイスメントの懸念も忘れてはいけない

 子宮頸がんにつながる「発がん型HPV」は全部で15種類ほどあるといわれています。

 ところが日本で定期接種になっている2つのワクチン(サーバリックス、ガーダシル)には、そのうちの2種類の16型・18型しか入っていません。

 ですからワクチンで16型・18型の感染を抑えても、他の「発がん型HPV」によって子宮頸がんになる可能性があります。HPVワクチンを受けても、その後も子宮頸がん検診は受け続けなければならないのはこの理由によるものです。

 ある型のウイルスを人為的に減少させると、それに代わって別の型のウイルスが増えてくるという現象は「型置換=タイプリプレイスメント」と呼ばれており、HPVワクチン開発の初期の段階から、その可能性が指摘されていました。

 現に、当会議の2020年10月26日のブログで指摘した新潟大学グループの研究では、日本の20~21歳のがん検診受診者の感染しているウイルス型を調べたところ、ワクチン接種率の高い世代で16型・18型の感染率は下がっていたものの、発がん型HPV全体でみると感染率は減少するどころか逆に増えています。

 ですから、Falcaroらの研究結果のように25歳未満のがんが減らせたからといって、それが生涯にわたってがんが予防できるという確固たる根拠にはならないということです。

副反応リスクのあるワクチンを打つより子宮頸がん検診の受診率を上げよう

 ワクチンには必ず副反応があります。

 HPVワクチンは特に重篤副反応の発生率が他の定期接種ワクチンよりも高く、これまでのところ1万人に約5人の割合で重篤な副反応疑い報告が出ています。深刻な副反応症状を治すための治療法は確立しておらず、多くの被害者が長年苦しんでいます。

 がん予防のためには、がん予防効果や死亡率減少効果が科学的に裏付けられている子宮頸がん検診の検診率を上げることが、我が国の子宮頸がん対策に必要なことではないでしょうか。

 我が国の子宮頸がん検診受診率は43.7%と(2019年、厚生労働省データ)欧米先進国の約半分のレベルにとどまっています。若い女性がもっと受けやすい検診方法(女性の医療者による検体採取や自己検体採取など)の開発や、検診の重要性の啓発などにもっと力をいれていくべきです。