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HPVワクチン接種の長期的効果に疑問符~米国国立がん研究所によるコスタリカでの追跡研究から~

HPVワクチンのサーバリックス(2価ワクチン)とガーダシル(4価ワクチン)は、12〜15種類くらいあるとされる「発がん型HPV」のうち、16型・18型の2種類の感染を予防するとされています。ところが、こうして一部の型の感染を予防しても、他の発がん型による感染が相対的に多くなってしまい、ワクチンの有効性が打ち消されてしまう可能性を示した研究結果が発表されていますので、ご紹介します。

コスタリカ研究とは?

ご紹介するのは、米国国立がん研究所が2022年7月のランセット・オンコロジー誌(Lancet Oncol. 2022 Jul; 23(7): 940–949)で発表した研究(以下コスタリカ研究)です。

この研究では、2004年から2005年までコスタリカで行われたサーバリックスの臨床試験に参加した女性たち(18〜25歳)のその後を、最長11年追跡しています。

接種後7〜11年経ったところでのワクチン有効性は?

HPVは、子宮頸部に感染しても2年以内にほとんどが排除されますが、その一部が持続感染することがあり、さらにその一部が前がん病変になります。

前がん病変はその程度によって、

 CIN1=軽度異形成

 CIN2=中等度異形成

 CIN3=高度異形成+上皮内がん

の3種類があり、CIN3の一部が子宮頸がんにまで進行していくとされています。

この研究では、ワクチン接種者と非接種者のCIN2以上(CIN2+)の発生率と、CIN3以上(CIN3+)の発生率をウイルス型別に調べて、HPVワクチンの効果を確かめています。その結果が表1です。

 表1 接種後7~11年の前がん病変の発生率(1000人あたり、Table2およびTable3から抜粋)

 

このうちCIN3+の発生率をグラフ(図1)にしてみました。

図1 接種後7~11年の高度な前がん病変 (CIN3+)の発生率(1000人あたり)

これをみると、「ワクチン対応型」の16型・18型によるCIN3+発生率は接種者の方が少ないですが、16型・18型と交差免疫を持つとされる「近縁型(31型・33型・45型)」によるCIN3+発生率は、接種者のほうが少ないものの、統計的な有意差はありませんでした(注1)

そして「その他の型」によるCIN3+発生率は、接種者のほうが非接種者よりも2倍以上多くなっていました。

これらをすべて足し合わせて接種後7~11年の1000人あたりのCIN3+の発生率を接種者と非接種者で比較してみると、接種者は19.8人、非接種者は23.1人で、接種者の方が少なくみえますが、統計的な有意差はありませんでした。

つまり、このコスタリカ研究では、接種後7~11年経つと、ワクチンに対応する16型・18型等による前がん病変が減っても、それ以外の型によるものが相対的に多くなることでその効果は打ち消され、トータルとしてワクチンの有効性を、統計的有意差をもって証明することができなくなってしまっていたということになります。

 

このような結果が起きる理由について、ワクチン対応型の減少に伴って他の型が増えて置き換わる現象(型置換、タイプリプレイスメント)の可能性もありますが、この論文では、「臨床的アンマスキングが起きている」(注2)という説明をしています。

しかし重要なことは、理由の推測がどうであれ、ワクチンを接種したグループでは、トータルとして見て、高度な前がん病変でさえ、減少効果が統計的有意差をもって示されなかったということなのです。もちろん、がんそのものの予防効果も示されていません。

このコスタリカの研究は、接種者の年齢(18~25歳)が、現在の我が国の定期接種者の年齢(12~16歳)より高いということはありますが、HPVワクチンの長期的効果についてウイルス型別に長期に追跡した大規模データとして注目すべき研究成果だと思います。

“子宮頸がんの6〜7割が防げる”という宣伝はほんとうなのか?

HPVワクチン推進派の医師やワクチンメーカーは、日本で子宮頸がんになった人の全体の6~7割が16型・18型によるものだったということを根拠に、「HPVワクチンを接種すれば、がんの6~7割が防げる」などと宣伝してきました。

それどころか、現在の子宮頸がんによる死者数に、16型・18型が占める割合を単純に掛け算して、接種勧奨中止により将来子宮頸がんで死亡する人数を予測する研究を発表した研究者もいました。

私たちは、これらについて、HPVワクチンが子宮頸がんそのものを予防する効果は証明されていないのに、前がん病変の予防効果を子宮頸がん予防効果と同視するものであるとして批判してきました。

加えて、このブログでも紹介した日本の新潟大学の研究(注3や今回のコスタリカ研究は、HPVワクチンの有効性は、前がん病変の予防効果においてさえ疑問があることを示しています。

日本では2024年6月30日までに、サーバリックスとガーダシルを約422万人が接種しています。この中には前述の「がんの6~7割が防げる」という宣伝を信じて打った人も多いのではないでしょうか。

一方で、この422万人のHPVワクチン接種によって、重篤な副反応疑い報告は合計2173件(サーバリックス1515件、ガーダシル658件)に上っています。この頻度は、接種者1万人に対して約5人であり、これは他の定期接種ワクチンの平均値に比べて大変高い頻度です。

ワクチンについては、接種のリスクと利益を国民に正しく伝え、接種するかどうかの判断をしてもらうということが原則のはずです。その意味で、今回のコスタリカ研究は、かつてのHPVワクチン接種の利益の宣伝が行き過ぎていたのではないかという反省を促す研究の一つだと思います。

 

注1 統計的有意差がないということは、得られた差が偶然による可能性を否定できないということであり、「ワクチンの有効性を、統計的には証明できなかった」ということになります。

注2 臨床的アンマスキングについて、この論文では「HPVワクチンは、より発がん性の高いHPV型の感染を防御するため、ワクチン接種者はワクチン未接種者に比べ、ループ電気外科的切除術(LEEP)やレーザー焼灼術などの臨床治療を必要とする頻度が少なくなることにより、ワクチン接種者はワクチン非対応の増殖が比較的遅いウイルス型による前がん病変が生じる機会が増えるという趣旨の仮説」と説明しています。

注3 HPVワクチンの有効性について新潟大学が不適切なプレスリリースを発表
https://yakugai.hatenablog.jp/entry/2023/02/28/123754