薬害オンブズパースン会議

薬害オンブズパースン会議のブログです。

「観察研究」として行われたアビガンの危険で野放図な使用がようやく終了へ!

 薬害オンブズパースン会議がこれまで3回にわたって意見書を公表して[1][2][3]、中止等を求めてきたアビガンの「観察研究」について、2021年末、厚生労働省が、ようやくアビガンの提供を終了する旨の発表をしました[4]

インフルでもコロナでも有効性の証明に失敗

 もともとアビガンは、抗インフルエンザ薬として申請され、有用性の証明に失敗したにもかかわらず、流通に置かないことを条件に、備蓄用として異例の承認が与えられたという経緯を辿っています。

 2020年4月、新型コロナウイルス感染拡大に伴う緊急事態宣言発令後の記者会見で安倍首相が「観察研究」の仕組みの中で希望する患者への使用をできる限り拡大すると述べ[5]、新型コロナ治療薬として未承認であるにもかかわらず、これまでに1万5000人以上の人に使用されました。

 しかし、アビガンは、これまで国内外の3つの治験(日本[6],クウェート[7],北米[8])で新型コロナウイルス感染症に対する有効性の証明に失敗しています。

アビガン投与を受けた軽症者の致死率は全国平均の10倍

 その一方で、危険性は明白です。

 2021年11月の藤田医科大学の発表[9]では、入院時に酸素投与が必要なかった軽症患者にアビガンを投与した結果、約1か月後までの死亡退院の率(致死率)が3.9%に達していました。全国の新型コロナ入院患者全体のデータを登録した国立国際医療研究センターのCOVID-19レジストリ研究の軽症患者の致死率0.4%[10]と比べると約10倍の高率です。COVID-19レジストリ研究のデータは、さまざまな治療法が適用されている入院患者の全国平均です。

 またアビガンが投与された 60 歳未満の患者の約 1 か月後までの死亡退院の率は 1.0%で、やはり COVID-19 レジストリ研究の 60 歳未満の患者の致死率 0.3%[11]の 3 倍以上でした。

 アビガン投与は軽症の新型コロナウイルス感染症患者にとって危険な治療法であることがはっきりと示されたといえます。

催奇形性のあるアビガンを妊婦が服用する例も

 また、催奇形性の問題も深刻です。

 催奇形性は、抗インフルエンザ薬として申請されたときから分かっていたことですが、2021年6月に製造販売企業の富士フイルム富山化学から医療機関に配布された「お知らせ」によって、妊婦がアビガンを服用したことが明らかになっています(その転帰は公表されていないために不明です)。

いすみ市の医療機関におけるずさんな服薬管理

 さらに、2021年12月、千葉県いすみ市の医療機関が、アビガン投与は入院患者に限るという厚労省の通知に反して、外来の患者に投与していたことが判明し[12]、「観察研究」に参加している医療機関の服薬管理のずさんさも明らかになりました。

被験者保護がはかられないアビガン「観察研究」

 そもそも、アビガンの「観察研究」では、患者にどのような説明を行って同意を得るかについて各医療機関任せになっているという問題がある上、有害事象が発生した場合への対応を含め、被験者保護のために藤田医科大学が責任をもって管理する体制がとられていません。

 臨床研究法の脱法の疑いがあり、少なくとも臨床研究指針に反する重大な問題があります。

残薬管理や倫理審査の実施状況を明らかにすべき

 当初2022年6月までとされていた研究を急遽終了させる理由について、厚労省と藤田医科大学は、明らかにしていませんが、終了の通知とともに以下のようなアンケートが送付されています。

○アンケート項目の抜粋1

使用状況について

  2.1 全て入院患者に処方していた。 はい・いいえ

外来や自宅療養者への投与をしていた場合その理由

  2.2 医師の管理下で、確実な服薬管理・残薬管理をしていた。 はい・いいえ

残薬を保持している患者がいる場合には、人数、年齢、性別、患者の転帰、残薬の回収状況について全例報告してください。

 この調査項目は、いすみ市の他にも入院外の使用があり、残薬の管理等が適切に行われていない可能性を念頭においた質問といえます。

○アンケート項目の抜粋2

  2.3 禁忌に該当する可能性のある者に対して、十分に説明・確認を行った。

はい・いいえ

  2.4 観察研究への参加に当たって、倫理委員会を開催した。 はい・いいえ

観察研究について、倫理審査委員会を開催していない場合、実施してください。

 この調査項目は、患者への十分な説明が行われていない可能性や、各医療機関が責任を持って行うべき倫理審査が適切に開催されていない可能性を念頭においた質問といえます。国は上記のアンケートの結果を公表するべきです。

国と藤田医大はアビガン「観察研究」問題の総括を公表せよ

 国は、既に述べたような問題のある「観察研究」に資金提供し、さらには製造販売企業の富士フイルム富山化学に対して補助金[13]まで出そうとしています。

 藤田医科大学は2月に最後のデータクリーニングをした後に、最終報告書を公表するとしていますが、国及び藤田医科大学は、単にデータの解析結果を公表するだけではなく、有効性を示せていないアビガンによって、多くの軽症患者を死亡させた可能性があること、また、妊婦の服用や入院外の使用などを招き、倫理的にも重大な問題を生じさせたことについても、総括をし、その結果を公表するべきです。

 

[1] 薬害オンブズパースン会議
アビガンに関する意見書(新型コロナウイルス感染症に関して)

https://www.yakugai.gr.jp/topics/file/AVIGAN_ni_kansuru_ikensho_covid_19.pdf

[2] 薬害オンブズパースン会議
藤田医科大学アビガン「観察研究」中間報告における死亡者を踏まえた意見書(新型コロナウイルス感染症に関して)

https://www.yakugai.gr.jp/topics/file/Fujita_kansatsukenkyu_chuukan_houkoku_ikensho.pdf

[3] 薬害オンブズパースン会議
アビガン「観察研究」の即時中止を求める再度の意見書-アビガン投与患者の致死率の高さを踏まえて-

https://www.yakugai.gr.jp/topics/file/Avigan_kansatsu_kenkyuu_sokuji_chuushi_saido_ikensho.pdf

[4] 厚生労働省新型コロナウイルス感染症対策推進本部の事務連絡

https://www.mhlw.go.jp/content/000874547.pdf

[5] 令和2年4月7日新型コロナウイルス感染症に関する安倍内閣総理大臣記者会見

https://www.kantei.go.jp/jp/98_abe/statement/2020/0407kaiken.html

[6] 薬事・食品衛生審議会 医薬品第二部会 令和 2 年度第 8 回審議概要

https://www.mhlw.go.jp/content/11121000/000719118.pdf

[7] クウェートでの治験第三相の結果 ドクターレディ社プレスリリース

https://www.drreddys.com/media/928938/2021-01-avigan-trial-update_v1.pdf

[8] 北米での治験第三相の結果 アピリ社のプレスリリース

https://www.appilitherapeutics.com/favipiravir

[9] 藤田医科大学観察研究第 4 報

https://www.kansensho.or.jp/uploads/files/topics/2019ncov/covid19_favip_210701.pdf

[10] 国立感染症研究所 COVID-19レジストリ研究論文

https://doi.org/10.1093/cid/ciaa1470

[11] 国立感染症研究所 IASR2021 年 1 月号

https://www.niid.go.jp/niid/ja/diseases/ka/corona-virus/2019-ncov/2488-idsc/iasr-news/10080-491p03.html

[12] いすみ医療センターウェブサイト「アビガン処方に関する報道について」

https://www.isumi-ic.jp/oshirase/41/%E3%82%A2%E3%83%93%E3%82%AC%E3%83%B3%E4%BD%BF%E7%94%A8%E3%81%AB%E9%96%A2%E3%81%99%E3%82%8B%E5%A0%B1%E9%81%93%E3%81%AB%E3%81%A4%E3%81%84%E3%81%A6_.pdf

[13]新型コロナウイルス感染症治療薬の実用化のための支援事業(二次公募)の採択結果について

https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_20946.html