薬害オンブズパースン会議

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HPVワクチンの有効性について新潟大学が不適切なプレスリリースを発表

 新潟大学の榎本隆之特任教授らによる「HPVワクチンの有効性と安全性の評価のための大規模疫学研究」(NIIGATA study)の新しい報告が2022年9月に論文化され(※1)新潟大学はそのことを2022年9月12日付プレスリリースで紹介しました。そのタイトルは

  「HPVワクチンによる子宮頸部前がん病変予防効果を確認」

です。

 このタイトルを素直に読めば、この研究によって「HPVワクチンの接種で子宮頸部の前がん病変(がんになる前の異形成と呼ばれる状態)が防げることが統計的有意差をもって確認された」と多くの人が受け止めるでしょう。

 実際に、このプレスリリース発表の2日後、ウェブメディアのメディカルトリビューンは「実証!HPVワクチンの前がん病変予防効果」と題して、プレスリリースそのままの記事を配信しました。

接種者全体では有効性に統計的な有意差が得られず

 ところがこのプレスリリースは、論文内容を正しく伝えるものではありませんでした。

 論文は、新潟県内の6つの市で子宮頸がん検診を受けた20歳から26歳の女性の検診結果をもとに、ワクチン接種者の前がん病変(HSIL+)の発生率が、非接種者に比べてどれだけ少ないかを検討してワクチンの有効性を調べたものです。ただし調査対象の女性の年齢構成が接種群と非接種群で3歳も違っていたため(年齢の中央値が、接種群が21歳なのに対し非接種群は24歳)発生率をそのまま比較することは科学的ではありません。日本人女性の子宮頸部前がん病変の発生率は、20歳を超えると年齢とともに上昇していくことが知られているからです。そこでこの論文では、両群の年齢調整をしています。

 表1にその結果を示しましたが、年齢調整した後のワクチンの有効率は54.1%(95%信頼区間:-21.0%~82.6%)。しかし95%信頼区間が0をまたいでいるので、「ワクチンの有効性は統計的有意差をもって確認できなかった」という結果です。

 さらにこの論文では、接種群と非接種群の間の性的活動性の違いも加味して調整しており、こちらの有効率は41.1%(95%信頼区間:-53.0%~77.3%)。しかしこちらも95%信頼区間が0をまたいでいるので、非接種群との間で「統計的有意差が得られなかった」という結果になります。

論文は「統計的に有意な有効性は認められなかった」と記載

 実際に論文抄録にも

「しかしながら、ワクチン接種を受けた女性全体を対象とした解析では、細胞診異常に対する統計的有意な有効性は認められなかった」(However, analyses of all vaccinated women did not show significant effectiveness against cytological abnormalities.)

と明記されています。

 本来ならば、これが論文の主要な結果としてプレスリリースで伝えられるべき内容なのです。

公的な研究費(税金)を使った研究結果を、国立大学が不適切な広報をするのは許されない

 公的な研究費(税金)を使って行われた公共性の高い研究結果を、国立大学のプレスリリースが、事実に反する内容で広報するということは許されないことです。

 そこで当会議では、新潟大学に対して、2023年1月18日付で、プレスリリースの訂正と、このような事実に反する内容となった経緯の検証を求める「HPVワクチンの有効性と安全性の評価のための大規模疫学研究」(NIIGATA Study)に関する新潟大学広報記事の誤認の訂正及びその原因検証実施の要望書」を提出しました。

プレスリリースがこっそり訂正されていた

 すると数日後にプレスリリースの文言が一部修正されていました。

 ワクチン接種者全体で有効性が統計的に有意に証明されたと読める、事実に反する記載が、初交前のワクチン接種者で統計的に有意差が得られたという記載に変わっていたのです。

  図1 修正前のプレスリリース冒頭部分

 

  図2 修正後のプレスリリース冒頭部分

 

 図1が修正前のプレスリリース冒頭部分で、図2が修正後の同じ部分です。

 「ワクチン接種者」となっていたところが修正後は「初交前のワクチン接種者」に、「HPVワクチン接種を受けた」となっていたところが修正後は「初交前にHPVワクチン接種を受けた」となっています(赤下線部)。

 初交前の接種者の解析は、この論文のサブ解析に過ぎません。この論文の結論は、接種者全体の解析では有効性に統計的な有意差が得られなかったことです。そのことが論文の抄録にも記載されているのに、それにまったく触れていないという、このプレスリリースの本質的な欠陥は、修正されていません。

 しかもプレスリリースが修正されたことが、このウェブサイトのどこを見ても書かれていないのです。そのため、どこが修正されたのかが分からないようになってしまっています。

 しかしすでに述べたように、当初のプレスリリースの記述によって、すでにメディアではHPVワクチンの有効性を実証した結果として事実に反する報道がされてしまっています。そんな中で、このような修正の仕方は著しく不適切です。当会議では、このような不適切な修正が行われた経緯についても明らかにするよう新潟大学に求めています。

有効性が証明できなかった研究が接種勧奨再開の根拠?

 そしてプレスリリースには「本研究グループの研究成果をもとに、厚生労働省は2022年4月より12-16歳女子に対するHPVワクチン接種の積極的勧奨を再開しました」と書かれています。

 このことは重大な問題です。

 繰り返しになりますが、この研究ではワクチン接種者全体の解析では、有効性に統計的有意差が得られず、初交前の接種者に限ったサブ解析だけで統計的有意差が得られたのです。

 一方、現実社会では、初交前か初交後かを問わず、12歳から16歳の少女全員を対象に接種勧奨が再開されています。接種前に「あなたは性交の経験がありますか?」と聞いて「はい」と答えた人を除外するなどということはしていませんし、そんなことができるはずもありません。つまり厚生労働省が本来根拠にすべきは、初交前に接種した人だけをサブ解析した限定的なデータではなく、接種者全体に対するワクチンの有効性データのはずです。

 さらに、HPVワクチンの子宮頸がん予防に対する有効性については、前がん病変でなく子宮頸がんによる死亡を減らす効果が証明されていないなどの問題点を残しています。

 厚生労働省は、「キャッチアップ接種」と称して、積極的勧奨が中止されていた約9年間に接種時期を逃した、より年齢の高い女性たちに対しての接種も積極的に勧奨しています。

 最新の科学的データに基づかない、非科学的なワクチン接種勧奨と言えるでしょう。

 

 新潟大学は、今回のような姑息な文章の一部修正だけでなく、論文の中身を正しく紹介したプレスリリースに全面的に書き替えるべきです。厚生労働省も国民にワクチン有効性に関する最新の情報を正しく提供すべきです。

 

 当会議では、新潟大学と研究者らに対して、要望書の受け取り後1か月をめどに回答をするよう求めています。回答が届いたらまたこのブログで紹介します。

 

※1

Kudo R, Sekine M, Yamaguchi M, Hara M, Hanley SJB, Kurosawa M, Adachi S, Ueda Y, Miyagi E, Ikeda S, Yagi A, Enomoto T. Effectiveness of human papillomavirus vaccine against cervical precancer in Japan: Multivariate analyses adjusted for sexual activity. Cancer Sci. 2022 Sep;113(9):3211-3220. doi: 10.1111/cas.15471. Epub 2022 Jul 11. PMID: 35730321; PMCID: PMC9459348.