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HPVワクチン『勧奨中止で死亡4000人増』のからくり-非現実的な仮定による水増し推計

「死亡増加4000人」と各紙は報じたが・・・

 2020年10月22日、日本経済新聞電子版に、「勧奨中止で死亡4000人増か 子宮頸がん予防ワクチン」という見出しで、「ヒトパピローマウイルス(HPV)ワクチンの積極的な接種勧奨を厚生労働省が中止し接種率が激減したことで、無料で受けられる定期接種の対象を過ぎた2000~03年度生まれの女性では、避けられたはずの患者が計1万7千人、死者が計4千人発生するとの予測を、大阪大チームが22日までにまとめた」とする記事が掲載されました。

 これは、大阪大学の研究グループの論文に基づくもので、その後東京新聞が「子宮頸がんワクチン中止 患者1万7000人増予想 大阪大チーム」、産経新聞が「子宮頸がんワクチン 勧奨中止で患者1万7000人」、読売新聞が「子宮頸がん 1.7万人増か 2000~03年度生まれ ワクチン勧奨中止で」、朝日新聞が「子宮頸がん、増加の推計 ワクチン接種減で 阪大グループ」などの見出しで各新聞が一斉に報道しました。
 論文はScientific Reportsという科学雑誌に掲載されたもので、大阪大学が学内研究者の研究内容を広報するためのウェブサイトで要点が紹介されています。

中身は従来のデータによる「単純な掛け算」

 新聞各紙が揃って報じているので、『HPVワクチンの効果について何か新しい実証データが出たのか?』と思った方もいるかもしれませんが、そうではありません。

 この研究は、これまでのデータを参考に、HPVワクチンには子宮頸がんを予防する効果がある、という前提に立って、集団的に接種するとどれだけ子宮頸がんの患者や死亡者が減るか、その数を推計しただけで、新しい実証データは含まれていません。
 つまり、この論文は、「HPVワクチンに子宮頸がんを予防する効果があるとすれば、接種によって患者や死亡者が減るはずだ」という当たり前のことを言っているだけです。

 推計の方法も、予測した効果と、接種率と、該当女性の人口を単純に掛け算しただけで、これを「研究」と呼べるのかも疑問なものです。

前提とされた数々の仮定はいずれも非現実的

 しかも、この推計は、HPVワクチン効果を非常に大きく見積もる仮定の上に成り立っています。いくつか例を挙げます。


仮定① HPVワクチンを接種すれば、16型と18型のHPVに起因する子宮頸がんを完全に予防できる。
 ⇒HPVワクチン接種によって子宮頸がんそのものがどれだけ予防できるのかについては、まだ実証されていません。

仮定② その予防効果は生涯続く。
 ⇒HPVワクチンのHPV感染予防効果がいつまで続くのかはまだ分かっていません。

仮定③ 日本人女性の子宮頸がんの原因のうち 16 型 18 型の占める割合は 60%であり、HPVワクチンを接種すれば子宮頸がん患者が60%減る。この60%の人たちが、他の型のHPVによって子宮頸がんになることはない。

 ⇒60%という数字は、日本人女性の子宮頸がん患者のうち16型または18型HPVが検出される人の割合からとったものですが、他の型のHPVに同時に感染している場合(重複感染)もあるため、16型と18型の感染がなくなったとしても、他の型のHPVによって子宮頸がんになる可能性があります。

仮定④ ワクチンを接種しても、16型/18型以外のHPVによる子宮頸がんの発生率は変わらない。
 ⇒16型・18型が減ると、その分が他の型に置き換わるという現象(タイプリプレイスメント)が生じる可能性が指摘されています。実際に、このブログでも紹介した新潟大学の研究のように、HPV ワクチン接種で 16 型と 18型の感染が減ったが、他の型が増えたため、ハイリスク HPV(発がん型HPV)全体でみると 20 歳前後の女性のHPV感染率は変わらないか、むしろ多くなっているという報告もあります。

仮定⑤ 今後子宮頸がん検診の受診率に変化がない。
 ⇒日本の子宮頸がん検診の受診率は、まだ十分に向上の余地があります。受診率が上がれば、早期発見早期治療による死亡者の減少が期待できます。

仮定⑥子宮頸がん患者の治療成績(致死率)も変わらない。
 ⇒がん治療が進歩を続けていることはご承知の通りです。


 この研究の推計値は、このように、HPVワクチンの効果を非常に大きく見積もった、非現実的ともいえる仮定に基づいて出された数字です。

 そしてそれを、「推計によれば子宮頸がんを予防出来たはずが、ワクチン接種が行われていないために増加した」(前記広報サイト)と述べているのです。

 

 なお、HPVワクチンを接種したことで子宮頸がんが抑制できたというスウェーデンの研究論文が最近公表されました。

 しかし、それは30 歳までに発生するまれながん(※)についてのデータにとどまり、生涯の子宮頸がんリスクを下げる効果がどの程度あるのかは、まだわかりません(なお、この研究には、接種群と対照群の年齢構成に大きな偏りがあり、子宮頸がん受診率にも差があるという限界があります)。


 一方で、HPVワクチン接種が 12 年ほど前に始まっているイギリスやオーストラリアでは 24 歳以下のがん罹患率が変わらないか逆に増えているというまったく反対の方向を示すデータもあります。

(※)日本で2017年に30歳未満で子宮頸がんと診断されたのは221人で、全年齢で診断された11,012人のうちの2%です。また同年の罹患率では、10万人あたり、15-19歳は0.1人、20-24歳は1.0人、25-29歳は6.1人となっています(国立がん研究センターがん情報サービス「がん登録・統計」(全国がん登録)より)

背景には著者らの利益相反~阪大の広報では言及なし

 さて、今回の大阪大学グループの研究が、なぜHPVワクチンの効果を非常に大きく見積もった、いわばHPVワクチンにきわめて有利な仮定に基づく推計を行っているのか。論文の次の部分を読むと、その背景が見えてきます。

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(日本語訳)

八木麻未、上田豊、関根正幸、榎本隆之は、MSD*から講演料を、上田豊はMSDから研究費を受け取っている。宮城悦子はロシュダイアグノスティック、ジャパンワクチン**とMSDから謝礼と講演料を受け取っている。宮城悦子はグラクソ・スミスクライン***とMSDから研究費を受け取っている。木村正はMSDから研究資金を受け取っている。中川、田中、池田は開示する情報はない。

*   HPVワクチンガーダシルのメーカー

**  HPVワクチンサーバリックスの販売会社

*** HPVワクチンサーバリックスのメーカー

 

 このように、著者たちの多くがHPVワクチンのメーカーとの経済的なつながり(利益相反)を持っています。一方この研究には国の研究費が使われています。国民の税金を使って研究しておきながら、このように非現実的な推計を用いて「ワクチンを打たないことで死亡が4000人増加する」とする論文が、ワクチンメーカーと利益相反のある著者によって書かれ、それを国立大学である大阪大学がプレスリリースで広報している、という構図になっています。
 大阪大学のウェブサイトでは、論文の中身を詳細に紹介していますが、論文に記載された著者の利益相反については全く触れていません

 多くの学術誌や学会で利益相反開示が必須になっていることからすれば、ウェブサイトでも利益相反は明らかにしておくべきでしょう。

厚労省の認識でも重篤副反応は10万人に54人

 「大阪大学グループが論文を発表した」ことは事実ですから、それを報じても誤報とはいえません。しかし、他のワクチンと比較して危険性が高く、重篤な副反応に苦しむ被害者がいるHPV ワクチンについて、科学的根拠の乏しい推計をした研究グループの広報を鵜呑みにして、ワクチン接種率が下がったために 死亡が4000 人増えるといった見出しの記事を書くことは妥当なのか、という疑問が残ります。
 厚生労働省は、HPV ワクチンの重篤な副反応報告の頻度は10万人に約54人としています(2019年8月末時点で、重篤副反応報告合計1853人、推定接種者数343万人)。積極的勧奨を再開した場合の接種率をこの論文が仮定している約70%とし、この副反応の頻度を 2000 年から 2003 年生まれの女性の人口約 230 万人に掛け合わせると、約 870人に重篤な副反応が発症する計算になります。しかもこの副反応頻度は、自発報告をもとにした数字ですので、実態はより高い頻度で副反応が生じていると考えられます。
 そして、中でも、多様な症状が重層的に現れる、HPV ワクチンに特有の副反応については、今も確立した治療法はなく、多くの被害者たちは将来の見通しがたたない生活を送っているのです。

非現実的な前提による「掛け算」が新たな被害をもたらす危惧

 折しも「情報提供を装った積極勧奨」ともいえる新リーフレットの個別通知がされるタイミングです。

 当会議は、大阪大学の広報内容を十分に吟味しないまま各社が報じた記事を読んだ読者が、不安を募らせ、HPV ワクチン接種に踏みきることで、副反応に苦しむ被害者が再度増加してしまうことを、強く危惧します。