高額なアルツハイマー型認知症の新しい治療薬が、2023年から24年にかけて日本で相次いで承認され、保険適用もされています。「レカネマブ(販売名レケンビ)」と「ドナネマブ(販売名ケサンラ)」です。いずれも認知症の原因物質に直接作用する初めての抗体薬という触れ込みで、脳内にたまったアミロイドβというたんぱく質を除去して、病気の進行を遅らせる効果があると宣伝されています。
重大な副作用(ARIA)があることがわかっている
この2つの薬には共通して、アミロイド関連画像異常(ARIA)という重大な副作用があります。ARIAにはARIA-E(浮腫など)とARIA-H(出血など)の2種類がありますが、それぞれの添付文書を見ますと「レカネマブ」では臨床試験でARIA-Eが12.6%の患者に、ARIA-Hが16.5%の患者に起きたと報告されており、「ドナネマブ」では臨床試験でARIA-Eが24.0%の患者に、ARIA-Hが31.4%の患者に起きたと報告されています。ARIAは臨床症状を伴わないことも多いですが、痙攣やてんかん重積等の重篤な事象が起こることがあり、関連する症状としては、頭痛、錯乱、視覚障害、めまい、吐き気、歩行障害等が報告されているということです。(レカネマブ添付文書から抜粋)
日本では副作用が起きやすい人にも投与可能
実は、このARIAは「APOEε4遺伝子」という特定の遺伝子を持っている人に高い頻度で発生することが臨床試験で分かっています。専門家による研究班のガイドライン*1によれば、それぞれの薬の臨床試験で「APOEε4遺伝子」を「持っていない人」「1つ持っている人」「2つ持っている人」のARIA-EとARIA-Hの発生率は以下のグラフのようになっていました。

「認知症に関するAPOE遺伝学的検査の適正使用ガイドライン初版」p.17より転載
このため、ヨーロッパの医薬品規制当局である欧州医薬品庁(EMA)は
①「レカネマブ」については、承認にあたって、患者の「APOEε4遺伝子」の数をあらかじめ調べて「持っていない人」と「1つだけもっている人」に投与を制限するという条件を付けています*2。
②また「ドナネマブ」については、ARIAなどの重大な副作用のリスクを上回るほどの効果が期待できないとして、現時点(2025年7月18日)では承認していません*3。
このようにヨーロッパでは、この2つの薬について、承認しないか、承認したとしても重大な副作用を避けるためにあらかじめ遺伝子検査をして副作用の少ない人に限って投与するという安全対策が取られているのに、日本ではそのような承認条件は設けられておらず、遺伝子検査も保険適用になっていないなど、患者を副作用から守るための積極的な取り組みが行われていないのが現状です。
「期待の新薬登場」という報道だけでなく
「レカネマブ」や「ドナネマブ」についてのメディアの報道は「アルツハイマー病に期待の新薬登場」といったトーンが目立ちます。
ところがこの2つの薬の重大な副作用についての対応が、日本とヨーロッパの規制当局で大きな差があることについて、ほとんど報道されていません。また投与される患者さんやご家族にそうした情報が正しく説明されているのかどうかについても、調査が行われていないため不明です。
この2つの薬は、現状で年間約300万円という値段に見合うだけの効果があるのかどうかや、そもそもアミロイドβを減らすことがほんとうに認知症予防につながるのか、など専門家の間でも論争のある薬です。
サリドマイド、スモン、薬害エイズ、薬害肝炎など、過去の薬害をみれば、国の医薬品の承認審査や安全対策の不適切さが、薬害を生み、拡大させたという苦い歴史があります。
海外の規制当局との対応の違いも被害拡大の要因の一つになりました。
もう一度「期待のアルツハイマー新薬」に対する承認の見直しと、安全対策の強化を検討すべきではないでしょうか?
ドナネマブについては、2025年7月24日、
今後レカネマブと同様に、
*1:
日本認知症学会、日本老年精神医学会、日本神経学会、日本精神神経学会、日本老年医学会、日本神経治療学会、日本遺伝カウンセリング学会の監修による「認知症に関するAPOE遺伝学的検査の適正使用ガイドライン初版2025年3月31日」作成:認知症に関するAPOE遺伝学的検査の適正使用ガイドライン作成委員会
https://www.jspn.or.jp/uploads/uploads/files/activity/apoeguideline2025.pdf
*2:https://www.ema.europa.eu/en/medicines/human/EPAR/leqembi
*3:https://www.ema.europa.eu/en/medicines/human/EPAR/kisunla