原文
Binagwaho A and Mathewos K (University of Global Health Equity, Rwanda)
EDITORIALS BMJ 2023; 380: p392 doi: 10. 1136/bmj.p392 Published: 20 February 2023
要旨
WHOは、2022-23年の2年間で6億6,000万ドル以上の資金不足に直面する。WHOの予算のうち、加盟国からの定期的な拠出金で賄われているのは16%に過ぎず、その他は公的、私的の任意拠出金である。
2022年のWHO総会で、加盟国は2023年から2031年までにWHOの予算の半分をカバーするために定期拠出金を予算全体の50%まで増やすという勧告に合意した。しかし、一部の国は、財政の厳しさを理由に懸念を表明している。加盟国からの拠出金が大幅に増えない限り、WHOは持続可能な資金を民間部門に求めるしかない。
WHOは、民間セクターからの寄付金を受け入れる方策として、法的に独立したWHO財団を2020年に創設した。WHO財団とWHOは、民間からの資金調達に関して「非国家主体との契約の枠組み(FENSA)」により規定されているが、民間セクターが公益団体と同等の地位を与えられているなど、利益相反管理の内容は適正でない。
WHO財団の設立は余計な重複であって資金問題の解決にならない。必要なのは、寄付に伴う利益相反を適切に管理する施策であり、WHOのポリシーの強化である。
当会議コメント
本論説では、利益相反をより適切に管理しながら、民間セクターを資金調達戦略に取り込むことを可能にすべきと述べている。しかし、WHOと関係する民間セクターの中心は、製薬企業とその関連財団であり、WHOが果たすべき保健衛生事業へのそれらの影響を排除することは不可能である。
2018~19年のWHOの拠出金額に関して、ビル・アンド・メリンダ・ゲイツ財団(10.8%)は、トップの米国(15.2%)に次ぐ金額であり、GAVIアライアンス(7.9%)は英国(8.1%)に次ぎ、他の加盟国の額を大きくしのぐ1)。GAVIアライアンスは、ゲイツ財団が出資設立した最貧国に新規ワクチンを安価に供給する国際組織である。2009年にWHOはGAVIを通じて最貧国に供給すべき有効で安全な薬としてガーダシルとサーバリックスを「事前認定」しており、公正な立場とは言い難い2)。
企業との利益相反によりWHOが本来の機能を失ってしまった明確な実例がHPVワクチンをめぐるWHOワクチン安全性諮問委員会(GACVS)の対応である。GACVSは、2015年12月、安全性への懸念から積極的勧奨の中止を続ける日本政府を事実上名指しで批判する異例の声明を出した。この声明は、日本における HPV ワクチン接種後の有害反応被害実態を正しく理解せず、それぞれの国の疾病罹患状況・衛生環境・教育・経済状況に基づいて適切な予防対策を立てるという保健政策の基本をわきまえない極めて不当な内容であった3)。
当会議は、すでに1999年12月、WHOと営利企業との関係性に関して、ガイドライン案に対するコメントを送付し、WHOと何らかの商業的関連を有する企業からのいかなる寄付も禁止すべきであり、財政困難への対処としては、外部監査システムを持つ独立機関を通じた拠出金とすべきことを提言した4)。当会議は深刻度を増している現時点において、WHOにこの提言を基本に据えた、高い政策理念に立つ資金問題への対応を求めたい。(N.M.)
参考文献等
1)WHO: Contributors
https://open.who.int/2018-19/contributors/contributor
[アクセス日:2023年5月29日]
2)薬害オンブズパースン会議:子宮頸がん予防ワクチン 推進するWHOの影にゲイツ財団と製薬企業
https://www.yakugai.gr.jp/attention/attention.php?id=421
3)薬害オンブズパースン会議:「WHOワクチン安全性諮問委員会(GACVS)のHPVワクチンに関する声明(2015年12月17日付)に対する反論」を送付
https://www.yakugai.gr.jp/topics/topic.php?id=930
4)薬害オンブズパースン会議;WHOの企業との関係に関するガイドラインに対するコメント送付