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【注目情報】アルツハイマー型認知症治療薬レカネマブ 新しい臨床試験の結果は、患者や介護者にとって喜ばしいものではない

原文

Lecanemab for Alzheimer’s disease  (アルツハイマー病に対するレカネマブ)

Walsh S ( University of Cambridge ) et al.  BMJ 2022; 379: o3010 Published 19 December 2022.

要旨

 アルツハイマー病に対する最新の抗アミロイド薬であるレカネマブの第Ⅲ相ランダム化比較試験の結果(※1)が、アルツハイマー病治療の新時代を告げるものとしてメディアに熱狂的に迎えられた。しかし、この結果は疑わしい。「ランダム化比較試験」とされているが、薬剤の点滴時の反応の大きな違い (レカネマブ26.4% 対プラセボ7.4%)などから、患者、家族、臨床医が治療群か対照群のどちらなのかを見破ってしまう「遮蔽解除」の可能性が高い。これは、アウトカム指標が患者や情報提供者の報告に基づくものである場合に特に問題となり、試験の信頼性を疑わせる。また、これまで開発されてきた他の抗アミロイド薬は脳からアミロイドを除去できても認知機能に対する効果が無効であったこと、レカネマブの認知機能に対する効果はわずかであり、統計学的には有意であっても臨床的な意義は小さいこと、安全性の懸念から、全体的に見て正しく評価する必要がある。

 レカネマブは承認された場合、患者ごとに年間数万ポンドの多額の費用がかかる可能性がある。さらに、PET(陽電子放出断層撮影)検査、有害事象を監視するためのMRI(磁気共鳴画像診断)を繰り返し行う必要があり、リソースが豊富な医療システムを備えた国でさえ、その能力をはるかに超えている。

 EMA(欧州医薬品庁)は臨床的に重要な最小限の差異の証明を要求しているため、欧州で承認される可能性は低い。英国NICE(国立医療技術評価機構)は評価にあたり、行動療法や施設入所までの時間など患者や家族にとって重要なアウトカムに関するデータを要求したが、レカネマブはどちらも利用できない。

当会議コメント

 2023年3月6日、レカネマブは米国で優先審査に指定された(※2)。処方せん薬ユーザーフィー法(PDUFA)による審査終了目標日は7月6日である。この間、6月9日にFDA諮問委員会が開催される。

 日本では、エーザイ株式会社が審査期間の短縮をめざし医薬品の事前評価相談制度を活用、2023年1月16日に第3相 Clarity AD試験、第2b相201試験の結果に基づき、早期アルツハイマー病に係る適応で新薬販売承認申請した(※3)。1月30日には審査期間が短縮される「優先審査品目」の指定も受けており(※4)、早期に販売承認される可能性が高い。

 しかし、レカネマブは認知症患者にとって費用対効果とともに、有効性と安全性のバランスに問題のある薬であることは間違いない。いずれにしろ、アミロイドβだけを標的にしている薬物療法には限界がある。新薬の開発よりも認知症患者および家族への全人的な支援にもなる非薬物療法の充実に向けた施策を優先すべきではないだろうか。(G.M)

参考文献等

※1NEJM誌臨床論文

Van Dyck CH (Yale School of Medicine) et al. Lecanemab in early Alzheimer’s disease

DOI: 10, 1056/ NEJM oa 2212948 (original article, 13 pages)

https://static.poder360.com.br/2022/11/estudo-remedio-alzheimer-29-nov-2022.pdf(アクセス確認: 2023年4月8日)

 

※2 エーザイ株式会社プレスリリース 2023年3月6日

https://www.eisai.co.jp/news/2023/news202316.html#:~:text=%E3%80%8CLEQEMBI%E2%84%A2%E3%80%8D

(以下、エーザイプレスリリースについては、いずれもアクセス確認: 2023年4月8日)

 

※3 エーザイ株式会社プレスリリース 2023年1月16日

https://www.eisai.co.jp/news/2023/news202307.html

 

※4 エーザイ株式会社プレスリリース 2023年1月30日

https://www.eisai.co.jp/news/2023/news202312.html