薬害オンブズパースン会議

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【注目情報】患者はがん治療の意思決定に必要なすべての情報を得ているか?

原文

Communicating the benefits and harms of anticancer drugs

Are patients getting all the Information they need?

(抗がん剤の効用と害を伝える-患者は必要な情報の全てを得ているか?)

Editorials.  Timothy Feeney et al (London, UK) BMJ. 2023; 380: p623.

要旨

 インフォームド・コンセントは、倫理的診療と意思決定共有するための重要な原則である。そうであるからこそ、患者が薬物治療についての十分な情報にアクセスできることが必要である。

 Davisら(※1)は、2017年から2019年にEMAにより承認された新しい抗がん剤について

①効用と害に関する正確な情報は入手可能か、完全か

②主要な臨床試験から得られた効果と害、それらがどの程度不確実なのかについて、患者が確実に理解できる方法で示されているか

を調査した。

 審査報告書、臨床医向けの製品概要、患者向け情報冊子を検討した結果、特に患者向けの情報冊子に改善の余地があることがわかった。

 32薬品中28薬品(88%)は、進行がんまたは転移性がんに対する治癒を目指したものでない試験での承認であったが、そのうち13薬品(41%)はどのような患者が対象かを示していない。患者が医師と同じ情報を得て正しい質問ができるかということが大事だが、医師向けと患者向けの情報には大きな差がある。医師は、患者が十分に得ることのできない情報を補ってサポートできるポジションにいる。患者が薬の効用と害の情報を十分得るには、患者とヘルスケア提供者の信頼関係が極めて重要である。規制当局は患者に対する重要な情報格差にもっと注意を払うべきである。

当会議コメント

 抗がん剤治療を受けるかどうかを決めるとき、患者は何を基準に判断するのだろうか。自分の病状・進行度合い、予後がどうか等を踏まえて、「医師が提案する治療法」について「医師の説明をもとに」決めるというのがほとんどかもしれない。

 その際に、患者向け情報冊子は使われているのだろうか。情報冊子を検討して決断するような猶予はそれほどないように思える。抗がん剤の適応となる手術不能の進行がんや転移、再発例などの場合、効く可能性が数%あるいはそれ以下であったとしても一縷の望みをつなぎたいという気持ちになるのも不思議ではない。開始するなら少しでも全身状態がよい時期にと迫られれば、自分にとって何が大事かを考える余地もなくなるのだろう。

 このような状況での選択は医師からの提案のしかたに大きく影響をうけるに違いない。だからこそ、医師以外の患者をサポートする医療スタッフが、患者の意向、生きている時間の価値を引き出して選択できるようにすることが求められるのではないだろうか。

 だが、医師から提案された治療法が、本当に自分の命の価値を高めることになるのか、しないことも含めて他にどんな選択がありうるのかを吟味するには、その薬の情報だけでは全く足りない。その情報すら不足では話にならない。患者向け情報のあり方を根本から見直すとともに、医師・医療スタッフ向けのガイドこそ必要だろう。(N)

参考文献等

※1 Davis C et al.  Communication of anticancer drug benefits and related uncertainties to patients and clinitians: document analysis of regulated information on prescription drugs in Europe (患者と臨床医に対する抗がん剤のベネフィットと関連する不確実性についてのコミュニケーション; 欧州における処方薬剤に関する規制情報の文書分析)

BMJ 2023; 380: e073711