薬害オンブズパースン会議

薬害オンブズパースン会議のブログです。

HPVワクチンを推奨する人たちの不適切な情報提供、その後

 2023年4月から、9価HPVワクチン「シルガード9」の定期接種が開始されてしまいました。当会議は、従来より定期接種とされてきた「サーバリックス」及び「ガーダシル」を上回る頻度で副反応が報告されているシルガード9の定期接種化に反対してきましたが、少なくとも定期接種化された今、対象者に正確かつ十分な情報を提供することは絶対に必要でしょう。

 しかし、前々回の記事「HPVワクチンの有効性について新潟大学が不適切なプレスリリースを発表」で取り上げた問題に至るまで、HPVワクチンを推進する立場からは、繰り返し不正確な情報が発信されてきました。そしてその中には、新たにシルガード9が定期接種の対象に追加された現在でも、いまだに適切な情報の修正が行われていないものがあります。

事実に反するポスターの公開を続ける日本小児科医会

 その一つが、日本小児科医会が2020年2月に公開したポスターです。このポスターには、「日本で毎年約10000人の若い女性が子宮頚がんを発症し、毎年約3000人が尊い命を落としています。」と書かれています。しかし、公開当時の最新データであった2017年の子宮頸がん罹患者総数11012人のうち、6445人は50歳以上であり、毎年約10000人の「若い女性」が子宮頸がんを発症しているという記載は明らかに事実に反します。さらに、3000人は全年齢を合計した年間の子宮頸がんによる死亡であるのに、このポスターの表現では、あたかも「若い女性」が毎年3000人も子宮頸がんで死亡しているかのような誤認を招くおそれがあります。

 そこで当会議は、2021年4月に、このポスターの訂正と回収を求める要請書を日本小児科医会に送付しましたが、日本小児科医会からの回答はなく、いまだに同会はウェブサイトでこの事実に反するポスターの公開を続けています。

リーフレットの誤りを周知しない東京小児科医会、 東京産婦人科医会、東京都医師会

 当会議は、2021年2月4日付けのブログで、東京小児科医会、 東京産婦人科医会、東京都医師会の3医師団体作成のリーフレットが、「子宮頸がんは20~30歳代の若い女性に多い病気です」とした上で、「このがんのために毎年約3000人の若い女性が命を失っています」と記述していたことについて取り上げました。

yakugai.hatenablog.jp

 そして、2018年に子宮頸がんで亡くなった人のうち、「20~30歳代の若い女性」では137人(全体の5%)、年齢幅を49歳まで広げても555人(全体の19%)であり、残りの81%は50歳以上の人であるという統計上の事実を挙げて、「毎年約3000人の若い女性が命を失っています」というリーフレットの記述は重大な誤りであると指摘し、上記の3医師団体に対し、直ちにこのリーフレットを回収し、ウェブサイトからも削除し、拡散した誤情報に対する適切な措置を取るよう求める書面を2021年2月5日に送付しました

 これに対して、東京小児科医会、 東京産婦人科医会、東京都医師会からそれぞれ回答が送付され、次のような修正がなされました。  

 回答では、この修正を周知するとされていますが、各会のウェブサイトでは、一部を修正した旨が記載され、修正版のリーフレットが掲載されているだけで、元版のどの部分をどのような理由で修正したのかの説明は全くありません。これでは、元版の「誤り」を周知したことにはならず、元版を手に取った人の誤解を改めることはできません。

適切な訂正記事を掲載しないBuzzFeed Japan 岩永記者

 東京小児科医会、 東京産婦人科医会、東京都医師会のリーフレットについては、インターネットメディアのBuzzFeed Japanが2020年7月13日公開の記事「『あの騒動も、このワクチンの存在も忘れられている』東京小児科医会、東京産婦人科医会がHPVワクチンリーフレット作成」で取り上げ、リーフレットの詳細を紹介した上で、東京小児科医会理事の萩原温久医師のインタビュー発言として、「毎年日本では、約1万人が子宮頸がんを発症し、約3000人の子育て世代の女性の命が奪われています」と、やはり事実に反する数字を記載していました。

 そこで、当会議は、BuzzFeed Japanに対しても、訂正記事を出し、記事中の誤りを明記してリーフレットの使用中止を呼びかけるよう求める書面を送付しました。

 これに対し、BuzzFeed Japanは、当会議に対しては何の回答もないまま、当会議の書面送付から3か月以上経過した2021年5月19日付けで、「毎年日本では、約1万人が子宮頸がんを発症し、約3000人の子育て世代の女性の命が奪われています」とされていた萩原温久医師の発言部分から、「子育て世代の」を削除し、「毎年日本では、約1万人が子宮頸がんを発症し、約3000人の女性の命が奪われています。」と修正しました。

 しかし、記事中に掲載されたリーフレットの画像は、「子宮頸がんは20~30歳代の若い女性に多い病気です」、「このがんのために毎年約3000人の若い女性が命を失っています」と書かれた元版がそのまま掲載されており、不十分です。

 しかもこの修正は、「UPDATE 2021年5月19日 15:24 一部表現を修正しました」と、訂正ではなく更新(UPDATE)の扱いとされ、どの部分を修正したのかも明示されていません。

 日本における毎年の子宮頸がんによる死亡者約3000人のうち約80%が50歳以上であるのに、毎年「約3000人の子育て世代の女性の命が奪われています」というのは、明らかに事実についての誤った情報というべきです。その誤りを明示せず、密かに修正するのは、報道機関としてきわめて不誠実なやり方です。

 このような修正のやり方は、BuzzFeed Japanの母体であるBuzzFeed Newsが定め、全世界のBuzzFeed Newsの記事編集業務に適用されるとする、「BuzzFeed News編集・倫理ガイドライン」にも反します。 

 編集・倫理ガイドラインでは、

「誤った原稿の修正には、訂正欄を使用してください。訂正や更新を行う方法やタイミングについて、詳しくはBuzzFeedスタイルガイドを参照してください」

としています。

 そして、参照すべきとされているBuzzFeedスタイルガイド(英文。BuzzFeedによる日本語訳はないため、以下の訳は当会議によります)には次のように記載されています。

How BuzzFeed Does Corrections(BuzzFeedの修正方法)

A correction should include the accurate information. It should explain the error, and it may restate the error when it's necessary to clarify what it was or to debunk a claim. See sample corrections at the end of this doc.

(訂正には、正確な情報を記載する必要があります。誤りを説明すべきで、誤りの内容を明確にしたり、主張を否定したりするために必要な場合は、誤りを再度掲載してもかまいません。このドキュメントの最後に、訂正文のサンプルがあります。)

そして、訂正文のサンプルでは、

Twitter's CEO could not be reached for comment. An earlier version of this post said Twitter's CFO could not be reached for comment.

(TwitterのCEOからのコメントは得られませんでした。この記事の以前のバージョンでは、TwitterのCFOからのコメントは得られませんでしたとされていました。)

と、間違っていた部分を再度提示することによって、誤りの内容を明確にする例が挙げられています。

 今回の記事の場合、「約3000人の子育て世代の女性の命が奪われています」という誤った事実の記載によって生じた読者の誤解を解くためには、約3000人は全年齢の子宮頸がんの死亡者数であって、子育て世代の子宮頸がんの死亡者ではないこと、及び、当会議が指摘した、子宮頸がんによる死亡者のうち、20~30歳代は5%、40歳代を加えても19%という正しい情報を挙げた上で、「子育て世代の」という記載を削除したということを説明した訂正記事が掲載されるべきでしょう。

 

 また、BuzzFeedスタイルガイドは、

Try to mention the correction on all channels the story went out on — if you tweeted it, tweet the correction, etc.

(また、ツイートした場合は、修正内容をツイートするなど、記事が発信されたすべてのチャンネルで修正内容に言及するようにしてください。)

としています。今回のBuzzFeed Japan記事については、公開当時のBuzzFeed Japan MedicalのTwitterでも紹介されていますので、こうした媒体でも、訂正記事を公開したことを告知すべきでしょう。

事実ではないことを知りながら報道したBuzzFeed Japan 岩永記者

 このように、BuzzFeed Japanの記事修正のやり方には問題があるのですが、実はこの記事にはさらに重大な問題があります。

 私たちは、3医師団体のリーフレットを見たとき、「このがんのために毎年約3000人の若い女性が命を失っています」という記述は誤りであると、すぐに気づきました。正確な統計上の数字は覚えていなくても、日本の毎年の子宮頸がんによる死亡者が全年齢を合計して約3000人であり、その多くは他のがんと同じように高齢者だということは、HPVワクチンの有効性・安全性を検討してきた者にとっては常識だったからです。

 一方、今回のBuzzFeed Japan記事の執筆者である岩永直子記者は、ここ数年来、HPVワクチンを推進する立場からきわめて精力的に記事を書き続けてきた方です。その岩永記者が、日本の毎年の子宮頸がんによる死亡者が約3000人であること、そしてその全てが「若い女性」であるはずがないということを、当然知っていると思われたのです。

 岩永記者の過去の執筆記事を見ると、やはりこのような死亡者データを扱った記事を複数執筆していました。

 たとえば、岩永記者が読売新聞社に在籍していた当時の2016年8月29日のyomiDr.(ヨミドクター)の記事「HPVワクチンをめぐる最近の動向」には、「年間3000人が子宮頸がんで死亡していますが、死亡者のうち200人は40歳未満で、若年者に発生する固形がん(血液のがんを除いたがん)の中では最も多い数となっています。」との記載があります。

 また、2019年9月5日公開のBuzzFeed Japan記事「若い女性に増える子宮頸がん 赤ちゃんと子宮を一緒に失う悲劇を防ぐために」は大阪大学講師(当時)上田豊氏の講演詳報ですが、その中で、「高齢になるとがん患者さんの数は増えますので」と子宮頸がんを含むがん患者は高齢になるほど増えるという認識が示されていますし、2019年11月5日公開のBuzzFeed Japan記事「『国の動きを待っていられない』 HPVワクチンの情報を自治体が独自に周知 日本産科婦人科学会が支持する声明」では、日本産科婦人科学会が2019年11月1日に発表した声明を紹介していますが、その声明の中でも、「2017年には、全国で約2,800人もの女性が子宮頸がんで命を落とし、その中で65歳未満のいわゆる現役世代の死亡数が1,200人を超えていることは、極めて憂慮すべき事態です」との記載があります。

 これらの記事から、岩永記者は、「毎年約3000人」という数字が子宮頸がんによる全死亡者数であって、その全てが「若い女性」ではないことを熟知しており、したがって「このがんのために毎年約3000人の若い女性が命を失っています」というリーフレットの記載は明らかに誤りであることを知っていたと考えられるのです。

 事実ではないことを知りながら報道することが、報道倫理の最も基本的な部分に反するものであることは言うまでもないでしょう。またリーフレットの記載の誤りに気付かずに報道したのであれば、ファクトチェックというもっとも基本的な記者の手順を怠っていたことになり、これも報道倫理を問われます。

 この記事を含むHPVワクチン報道で、BuzzFeed Japanは、一般社団法人インターネットメディア協会(JIMA)の第1回 Internet Media Awardsにおいて、『正確かつ、様々な立場のひとたちに寄り添った情報発信』であるとして、選考委員特別賞を受賞しています。このような事態は、BuzzFeed Japanのみならず、インターネットメディアに対する信頼を大きく傷つけるものといえるでしょう。