中医協がゾコーバの有用性の乏しさを指摘し、薬価引き下げへ
塩野義製薬が製造販売する新型コロナウイルス感染症治療薬ゾコーバについて、2024年10月9日開催の厚労省中央社会保険医療協議会(中医協)において、標準治療に対する追加的有用性がなく、費用対効果は極めて悪いとして、薬価が引き下げられることになったと報じられています[1]。
ゾコーバはそもそも承認されるべきではなかった
ゾコーバは、パンデミック等の緊急時に「有効性の推定」だけで承認を与える例外的な制度として創設された緊急承認制度の第1号として、2022年11月に承認された薬剤です。しかし、そもそも、緊急承認を与えたこと自体に問題がありました。
その理由は複数ありますが、そのひとつが有効性が示せないことでした。治験(承認を得るための臨床試験)において、当初設定した主要評価項目である12の臨床症状の症状改善について、プラセボ群と比較して統計的有意差を示せず、審議会で「有効性の推定」ができないとされたのです。
その後、塩野義製薬は、主要評価項目を有意差が得られそうな5つに変更し、緊急承認を得たのですが、治験途中で主要評価項目を変更することは、臨床試験の大原則に反する禁じ手です。
しかも、ゾコーバには、添付文書にも記載されているとおり[2]、催奇形性という大きなリスクがあります。その一方で、有効性とされているものは、倦怠感又は疲労感、熱っぽさ又は発熱、鼻水又は鼻づまり、喉の痛み、咳、といった5症状の消失までの時間が約24時間短縮されるというものであり、あまりにもバランスを失していました。
その後、ゾコーバは、2024年3月には通常承認を取得しています。しかし、この承認の根拠となった有効性についても、有意差が示されているとは言い難いデータでした。
本剤の緊急承認及びその後の通常承認は、明らかな誤りであり、これは費用対効果以前の問題です。
当会議は、以下のとおり、3通の意見書を公表して、ゾコーバの緊急承認に反対し、さらには、通常承認の取り消しを求めてきました。
■「塩野義製薬の新型コロナウイルス感染症治療薬の緊急承認に反対する意見書」(2022年6月20日)
■「塩野義製薬の新型コロナウイルス治療薬ゾコーバの緊急承認に反対する」(2022年11月21日)
■「ゾコーバの承認取消し等を求める要請書」(2024年5月8日)
塩野義製薬によるゾコーバ売り込みの不透明さ
これらの意見書でも指摘したとおり、ゾコーバが承認に至る経過では、塩野義製薬からトップセールスを受けた閣僚経験者が、未承認の段階であるのに「効能は他を圧しています」「石橋を叩いても渡らない厚労省を督促中です」とSNSで発信するなど、当初から政治的にも不透明な動きが認められました。
新型コロナ禍以降に塩野義製薬から内閣府や経産省への出向者が増員されていることも[3],[4]、不透明さの一端を示すものとなっています。
米国FDAに有効性を示せず、日本では妊婦投与例が40例(うち3例が流産)
2024年5月13日、塩野義製薬はプレスリリース[5]を発表しました。注意深く読むと記載されていることが分かりますが、ゾコーバは、グローバル第3相臨床試験で、米国食品医薬局(FDA)と合意した主要評価項目について有意差を示すことに失敗しています。
また、2024年9月20日に開催された医薬品等行政評価・監視委員会には、ゾコーバ投与後に妊娠が確認された症例が累積40例(流産3例を含む)と報告されており[6]、当会議が緊急承認以前から指摘してきた妊婦への投与というリスクが現に顕在化しています。
ゾコーバの承認はただちに取り消されるべきであることが一層明らかになっています。
今なおゾコーバの承認を取り消さない政府は、薬害から国民を守るという責務を放棄していると言わざるをえません。
1000億円が動いたゾコーバについて厳しく検証すべき
この間、政府は200万人分(1000億円分)のゾコーバを購入したものの、その9割弱が未使用と報じられています[7]。どれだけの税金が無駄遣いされ、塩野義製薬はどれだけの利益を得たのでしょうか。
ゾコーバを巡る一連の経緯と医薬品行政のあり方は、厳しく検証されるべきでしょう。
[1] 日本経済新聞(2024年10月9日)「コロナ薬ゾコーバ、
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUA091AT0Z01C24A0000000/(2024/10/19閲覧)
[2] ゾコーバ錠125mg 添付文書
https://pins.japic.or.jp/pdf/newPINS/00070668.pdf(2024/10/19閲覧)
[3] 内閣官房内閣人事局「民間から国への職員の受入状況」 https://www.cas.go.jp/jp/gaiyou/jimu/jinjikyoku/jkj_ukeire_r060329.html(2024/10/19閲覧)
[4] RISFAX(2024年4月19日)「政府出向など37人、新型コロナで続々 製薬各社 厚労省や内閣府に集中、“人的交流”から民間依存に拍車」
https://risfax.co.jp/risfax/188181(2024/10/19閲覧)
[5]塩野義製薬プレスリリース(2024年5月13日)「
[6] 第17回 医薬品等行政評価・監視委員会【資料1】催奇形性を示す薬剤に関する安全対策の現状について(医薬局提出資料)https://www.mhlw.go.jp/content/10601000/001305538.pdf(2024/10/19閲覧)
[7] 注1に同じ