薬害オンブズパースン会議

薬害オンブズパースン会議のブログです。

【注目情報】がんと迅速承認: FDAが シングルアーム試験(Single-Arm Trials )に断固たる処置をとる、難治性疾患に焦点

原文

Cancer and Accelerated Approval: FDA to crack down on Sigle-Arm Trials, Refractory Disease Focus;Pink Sheet 2022年6月10日

(がんと承認の加速: FDA は単群治験を取り締まり、難治性疾患に焦点を当てる)

要旨

米国食品医薬品局(FDA)の腫瘍学研究拠点のセンター長 Rick Pazdur 氏はがん治療剤の開発において、シングルアーム試験(対照群のない単一群で実施する臨床試験)の使用を縮小し臨床試験の早い段階でランダム化試験 (RCTs) を行うことを求めている。目標は迅速承認のあと、エビデンスが確認され臨床的なベネフィット(利益)が決まるまでのはっきりとしない期間を短縮することにあるとしている。

この要請は、迅速承認された後の検証試験に失敗したがん治療剤が、適応症や使用法などのラベリング(日本の添付文書に相当)での記載が見直されていない問題を踏まえて行われている。FDA は今年初めにシングルアーム試験で有望とされた血液がん治療剤phosphatidylinositol 3-kinase (PI3K)を迅速承認したが、その後行われたランダム化試験では毒性が強く、生存期間を減じることが判明した。Pazdur 氏の主張は、迅速承認の意義を認めながらも、その対象となる疾患と薬剤をより厳格に選ぶべきとの立場である。

当会議コメント

米国FDAの迅速承認制度では、日本の医薬品における条件付き早期承認制度(※1)と同様に臨床的ベネフィットが十分証明されていない段階で審査、承認されるが、その後のランダム化試験などの検証試験で想定されたベネフィットが確認されなければ承認が取り消されるはずである。ところが、FDAの迅速承認を受けたがん治療剤の3分の1が、承認後の確証試験で有効性が認められなかった場合であっても、適応症の見直しなどが行われず、診療ガイドラインで推奨されたままになってしまう薬剤もあることが報告されている(※2)。

がん治療剤など、重篤難治性疾病や希少疾病に対する治療薬の開発には、人道的にも薬事法上の特別措置が必要な場合があり、FDAもシングルアーム試験での承認を完全に否定しているわけではない。しかし、対象疾患と薬剤をより厳格に選ぶべきであり、安易に奏効率などの副次的エンドポイントでがん治療剤などの難治性疾患治療薬を承認すべきではない。一度承認され医療現場で使用された薬剤の評価は難しい上に、たとえ検証試験で失敗した薬剤でも、承認が取り消されずガイドラインでの推奨が継続されてしまうことがまれではないことも十分認識する必要がある。(G.M)

参考文献等

※1

医薬品の条件付き早期承認制度

https://www.pmda.go.jp/review-services/drug-reviews/0045.html

※2

Regulatory and clinical consequences of negative confirmatory trials of accelerated approval cancer drugs: retrospective observational study.

(迅速承認された抗がん剤の否定的な確認試験の規制上および臨床上の結果:後ろ向き観察研究)

BMJ 2021; 374; n1959  https://www.bmj.com/content/374/bmj.n1959