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情報公開請求に嘘をついてまで隠そうとする厚労省-MSD『恫喝』文書情報公開請求〔中間報告〕

このたび、当会議が行っている情報公開請求の不服申立て(審査請求)手続において、情報公開・個人情報保護審査会の答申(注1)が出され、これによって厚生労働省の相変わらずの隠蔽体質が明白となりましたので、怒りを持って告発したいと思います。

情報公開・個人情報保護審査会の答申(p.1)

 

当会議が情報公開請求を行ったのは、2021年8月にHPVワクチン(ガーダシル、シルガード9)の製造販売企業であるMSD株式会社が厚生労働省に対して提出した、HPVワクチンの積極的接種勧奨の再開を強く要求する文書です。

HPVワクチンの積極的接種勧奨の中止

ご承知のとおり、HPVワクチンは、2010年11月に公費助成が開始されて非常に高い接種率を達成しましたが、重篤な副反応が多発し、2013年4月に定期接種化されたものの、直後の同年6月、厚労省の副反応検討部会(※)において積極的な接種勧奨の差し控え(中止)(注2が決定されました。

その後も定期接種自体は継続され、副反応検討部会において定期的に副反応報告等に基づく安全性の検討が行われましたが、2021年8月4日開催の部会までの間、積極的勧奨の再開に向けた議論は全くなされていませんでした。

※正式名称は「厚生科学審議会予防接種・ワクチン分科会副反応検討部会」及び「薬事・食品衛生審議会医薬品等安全対策部会安全対策調査会」の合同部会。

MSDが厚労省に文書提出

この8月の部会の後、MSDが今回の文書を提出したことは、2021年8月28日のネットメディアBuzzFeed Newsの記事「製薬会社が厚労省に警告『HPVワクチン廃棄なら国際的に批判』」(注3)で明らかとなりました。

記事では、文書の内容を引用しながら、次のように報じています。

-------記事から抜粋引用開始、青による強調は当会議-------

8月の終わりに近づいても、副反応検討部会での議論も始まらないことに痺れを切らしたMSDは文書の中で「世界的な需要の高まりの中日本を優先して確保したワクチンを廃棄せざるを得なくなるリスクがある」と懸念を表明。

(中略)

そして、「大量のワクチンを廃棄せざるを得なくなった場合には、ワクチンは重要かつ必須の公共財であるという認識を日本政府が持っていることを世界の関係者に納得してもらうことが難しくなる」とした上で、こう突き放している。

「そのような事態になれば、4価ワクチンのみならず、同様に世界的に需要が高まっている9価ワクチンを日本向けに確保する上でも悪影響を及ぼし得ると懸念する」

(中略)

製薬会社からのこのような激しい突き上げが厚労省にきていることに対し、政府関係者の一人はこう話す

「このままでは『貴重なワクチンを廃棄する国』として、国際的な信頼を失墜させるキャンペーンが起こってもおかしくない状況です。ワクチンや治療薬を供給するラインから日本が外れていきかねません

MSDは変異株への効果が期待されるコロナの経口治療薬の開発も進めており、ここで信頼を失えば、今後の日本のコロナ対策に影響が出てくる可能性もあります。『日本にはずっと裏切られ続けてきたから、世界の公衆衛生をしっかり考えることのできる国に優先して回す』と言われたら反論ができません」

「政府は一刻も早く、積極的勧奨再開という正常化に向けて動き始めてほしいと思います」

-------引用終わり-------

 

以上の記事から分かるように、MSDは、当時新型コロナ感染症のワクチンや治療薬が国際的な争奪戦になっていたことを背景に、HPVワクチンを大量に廃棄するようなことになったら、今後のワクチンなどの供給で不利な扱いを受けても知らないぞ、と日本政府をいわば恫喝したというのです。

MSDと厚労省の水面下の合意

ただ、当時積極的勧奨が中止され接種率が1%を切っていた中で、なぜMSDがそんなに大量のHPVワクチンを日本向けに確保していたのか、という疑問が湧きます。

その答えは、9月2日 のBuzzFeed Newsの続報記事(注4)で明らかとなります。

この記事では、MSDの担当幹部が、インタビューに以下のように答えています。

-------記事から抜粋引用開始-------

――MSDは田村憲久厚労相らに、「積極的勧奨再開が延びてワクチンを廃棄するようなことがあれば、国際的な批判は免れず、今後のワクチン確保にも悪影響を及ぼす可能性がある」と警告する文書を出されましたね。なぜこのタイミングだったのですか?

この文書は正式に提出したものではないので、この内容の質問については答えを差し控えさせていただきます。

-------引用終わり-------

 

このように、記事では、MSDは正式ではないとしつつも提出の事実は否定せず、事実上提出を認めていることが報じられています

さらに記事では次のような回答が紹介されています。

-------記事から抜粋引用開始-------

――9月1日に発表した「HPV ワクチンの積極的な接種勧奨再開に関する厚生労働大臣の発言についてMSD 株式会社のステートメント」に絡めて伺います。今年10 月の積極的な接種勧奨の再開、2022年4月より前のキャッチアップ接種開始について厚労省との合意を前提とした動きです。この合意はあるのですか

元々、予防接種法でワクチンの確保は国の責務ですし、我々企業はその供給に協力する責務があるということで、緊密に協力し、話し合いをするのは普通のことです。

今回につきましても、国との信頼関係の中で対話をして、我々としては10月の再開のために準備をしてきたというところです。緊密な協力をしてきたということです

-------引用終わり-------

 

この記事から分かることは、副反応検討部会において積極的勧奨の再開について全く議論されていない中で、厚労省は水面下でMSDと協議して10月に再開することで合意し、MSDはそれを前提にワクチンを確保していたということです。

あっという間に積極的勧奨再開が決定

そして、この報道の後、厚労省は、慌てたように、10月1日開催の副反応検討部会に「現在HPVワクチンの定期接種の積極的な勧奨が差し控えられていることについて、どのように考えるか」を「論点」とする資料を提出しました。資料では積極的勧奨再開にマイナスとなる情報は排除されており、同日と11月12日のわずか2回の部会審議で、積極的勧奨の再開が決定されたのです。

このように、厚労省と製薬企業の水面下の協議によって、積極的接種勧奨の再開という医薬品の安全に関する政策について合意がなされていたというのは、きわめて不透明な政策決定過程であるといわざるを得ません。

情報公開請求と文書不存在による不開示決定

そこで、当会議は、2021年10月29日、この『恫喝』文書の情報公開請求を行いました。

開示請求書では、開示を請求する文書を次のように特定しました。

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BuzzFeed Japan の2021年8月28日公開記事「製薬会社が厚労省に警告『HPVワクチン廃棄なら国際的に批判』」、及び BuzzFeed Japan の2021年8月28日公開記事「3時間に1人が子宮頸がんで亡くなる現状で『事実上の先送りは遺憾』MSD幹部が語るHPVワクチンを届けたい女性への思い」においてMSD株式会社が厚生労働省に渡していたとされる、HPVワクチンを廃棄するようなことがあれば今後のワクチン供給にも悪影響を及ぼす可能性がある旨警告する文書。

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開示請求で使用した「警告する文書」という表現は、BuzzFeed記事で用いられていた表現をそのまま用いたものです。

すると、厚労省は、同年12月14日、「事務処理上作成又は取得した事実はなく、実際に保有していないため、不開示とした」とする不開示決定をしました。

いわゆる文書不存在を理由とする不開示決定です。

しかし、BuzzFeed記事は引用が豊富で実際の文書を見なければ書けない内容ですし、続報記事ではMSD幹部が提出の事実を認めていますので、厚労省が取得・保有していないというのは到底納得できません。

そこで、当会議は、この不開示決定の取り消しを求める審査請求(不服申立て)を行いました。

審査会答申によって明らかとなった厚労省の嘘

審査請求では、有識者によって構成される情報公開・個人情報保護審査会に諮問がなされ、審査会が当該不開示決定の当否について調査・審議した上で、答申がなされます。

その答申が、2024年7月31日に出されました。

結論は次のようなものでした。

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「別紙の1に掲げる文書(以下「本件対象文書」という。)につき, これを保有していないとして不開示とした決定については, 別紙の2に掲げる文書につき, 改めて開示決定等をすべきである。」

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つまり、厚労省は「対象文書は保有していない」と言って不開示にしたけれど、実際には該当する文書を保有していたから、その文書について改めて開示・不開示の決定をしなさい、という答申す。

答申によると、厚労省は当初は、審査会に対して、健康局予防接種担当参事官室を探索したが、当該文書を保有していなかった、と説明していました。

しかし、審査会がさらに詳しい説明を求めたところ、厚労省は、BuzzFeed記事が公開された当時である2021年8月頃,MSDから提出された文書を受け取っていたことを明らかにした上で、その文書の内容を『警告』とは受け止めなかったため、開示対象として指定された文書ではないと判断して、文書は不存在であるとした、と回答したというのです。

「開示請求書には『警告する文書』と書いてあったけれど、『警告』とは思わなかったから、対象文書としなかった」という屁理屈です。

そこで、審査会がそのMSDから提出された文書を実際に確認したところ、

・文書の作成者は記事の内容通りMSDだったこと

・2021年8月頃受け取ったというのはBuzzFeed記事の内容に照らして時系列的に不自然ではないこと

BuzzFeed記事で引用されている内容と比較対照すると、両者の内容は基本的に合致していること

といった理由から、審査会は、このMSD作成の文書が「本件対象文書に該当すると判断することが適当」と結論づけたのです。

要するに、厚労省が持っていたMSD作成の文書を審査会が見てみたら、BuzzFeed記事の内容の通りの文書であり、当会議が請求していた文書そのものだったということです。

この答申の理由を見れば、厚労省が持っていた文書が、普通に読めばBuzzFeed記事に書かれている文書であると分かることが明らかです。

厚労省は、文書を持っているのに、持っていないと嘘をついて不開示決定をしていたのです。

 

あまりにひどいやり方に、開いた口が塞がりません。

こんなことまでして情報を隠そうとする厚労省を、あなたは信用できますか?

 

注1

https://www.soumu.go.jp/main_content/000960189.pdf

注2

https://www.mhlw.go.jp/stf/shingi2/0000091963.html

注3

https://www.buzzfeed.com/jp/naokoiwanaga/hpvv-msd

注4

https://www.buzzfeed.com/jp/naokoiwanaga/hpvv-msd-tachibana