薬害オンブズパースン会議

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抗インフルエンザ薬による副作用死が急増-新薬ゾフルーザの安全性に重大な懸念

薬害オンブズパースン会議は、2020年1月21日付で、ゾフルーザの承認取り消しと先駆け審査指定制度の見直しを求める再要望書を、厚生労働省と製造販売業者(塩野義製薬)に送付しました。

抗インフルエンザ薬の副作用による死者は全国で55人に

厚生労働省がまとめた昨シーズン(2018/2019シーズン)の抗インフルエンザ薬の副作用報告の内容は衝撃的なものでした。
現在、日本で主に使われている抗インフルエンザ薬は、タミフルとその後発品(タミフル等)と、イナビル、リレンザ、ラピアクタ、それに昨シーズン本格的に使われるようになった新薬ゾフルーザがありますが、これらの抗インフルエンザ薬の昨シーズンの推定使用患者数992万人に対して、重篤副作用報告症例数が489人、死者が55人も出ていたのです。
それまでの過去8シーズンの重篤副作用報告症例数は例年200人前後(平均192.1人)、死者数は10人前後(平均10.4人)で推移していましたから、昨シーズンは、それぞれ2.5倍、5.3倍に急増していたのです。(図1、図2参照)
昨シーズンは、前年に比べて抗インフルエンザ薬を使った人が減っていたのに、重篤副作用報告症例数と死者数は逆に増えていました。

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図1 抗インフルエンザ薬の推定使用患者数(折れ線グラフ・右目盛り・万人)と重篤副作用報告症例数(棒グラフ・左目盛り・人)の年次推移

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図2 抗インフルエンザ薬の推定使用患者数(折れ線グラフ・右目盛り・万人)と副作用による死亡症例数(棒グラフ・左目盛り・人)の推移

なぜこんなことが起きたのでしょうか。

前述したように昨シーズンは、既存のタミフル等、イナビル、リレンザ、ラピアクタの4種類の抗インフルエンザ薬に加えて、新薬ゾフルーザが市場に本格的に参入し、一気にベストセラー薬となった年です。2018年3月に販売開始されたゾフルーザの昨シーズンの推定使用患者数は427万人、抗インフルエンザ薬全体の43%といきなりトップシェアを獲得しています。

私たちは、このことが抗インフルエンザ薬による重篤副作用と死者が急増した原因と考えています。昨シーズン、ゾフルーザだけで重篤副作用報告症例が348人、死亡症例が37人も出ているからです。

ゾフルーザの重篤副作用発生頻度、死亡症例発生頻度は高かった

2010/2011シーズン以降の9シーズンについて推定使用患者100万人あたりの発生頻度を計算してみると、ゾフルーザを除く4種類の抗インフルエンザ薬では、重篤副作用、死亡の報告頻度が、それぞれ21.4、1.3なのに対し、ゾフルーザの報告頻度は、85.2、9.1と、あきらかに高い(4.0倍~7.1倍)ことがわかります。(図3、図4参照)

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図3 重篤副作用発生頻度の比較

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図4 死亡症例発生頻度の比較

 国の医薬品安全対策調査会でも委員から懸念が

これらのデータが報告された厚生労働省の調査会(令和元年度第9回薬事・食品衛生審議会薬事分科会医薬品等安全対策部会安全対策調査会、2019年10月29日)では、委員の1人が次のような懸念を表明しています。

望月眞弓委員(慶應義塾大学薬学部病院薬学講座特任教授)

「・・・推定使用患者数は、例年とそれほど、むしろ昨年よりは減っているのですが、この重篤副作用報告症例数はぐんと上がり、死亡症例数も結構上がっています。これの寄与が、もしかしたらゾフルーザの調査の方法が、ほかのものに比べるとちょっと違っているのかもしれないのですが、(中略)全体としてぐんとこの重篤副作用報告件数が上がるというところは、もう少ししっかり見ておいたほうがいいかなと思います。どこかで適切な形で御報告を頂いたほうがいいと私も思いました。」

厚生労働省は新たな安全対策を怠っている

ところが厚生労働省は、2020年1月20日現在、ゾフルーザに対して新たな安全対策や注意喚起を行っていません。

それどころか、昨シーズンのゾフルーザ副作用として報告された37人の死亡症例についても「情報不足等により因果関係が評価できない」「因果関係は認められない」として、緊急の安全対策の参考にさえしていないのです。37人の報告中33人については診療にあたった医師が「薬剤と死亡との因果関係あり」と判定しているのにもかかわらず、です。

直ちにゾフルーザの安全性の再点検を

私たちは、他の抗インフルエンザ薬の副作用についても強い懸念をもっており、自然の経過でほとんど治癒するインフルエンザという病気に抗インフルエンザ薬を投与することをお勧めしていません。
とはいえ、特にゾフルーザについては、直ちに安全性の再点検を行うべきだと考えています。
というのも、ゾフルーザは、日本発の新薬を、短い審査期間で承認し世界に向けて売り出すという趣旨で試験的に導入された「先駆け審査指定制度」で承認された第1弾の薬の一つだからです(薬害オンブズパースン会議「ゾフルーザと先駆け審査指定制度に関する要望書」2019年4月8日参照)。
そしてすでに、市販前の短い審査期間ではわからなかった「出血」と「アナフィラキシー・ショック」という重大な副作用が市販後に見つかって、添付文書の改訂が行われています。
そんな中、昨シーズン400万人以上に使われたことで、新たに安全性への重大な懸念が明らかになりました。厚労省はこれに真摯に対応すべきです。