薬害オンブズパースン会議

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骨粗鬆症治療の新薬イベニティで副作用死亡報告が多発

市販直後調査で16人の死亡報告

画期的な骨粗鬆症治療薬という触れ込みで、去年(2019年)3月に世界に先駆けて日本で販売開始されたイベニティ(一般名:ロモソズマブ)という新薬があります。

このイベニティの市販直後調査の結果、発売後わずか半年間で重篤な心血管系の副作用の報告が39例40件あり、16人が死亡していたことが明らかになりました。

死亡した16人はいずれも70歳以上で、副作用名は心肺停止、急性心筋梗塞、心障害、うっ血性心筋症などでした。

国内では心血管系リスクのある患者を禁忌対象としないまま販売継続

この調査結果を受けての厚生労働省の対応には、大きな問題があります。

厚労省は、薬の添付文書の警告欄に「市販後において、本剤との関連性は明確ではないが、重篤な心血管系事象を発現し死亡に至った症例も報告されている。本剤の投与にあたっては、骨折抑制のベネフィットと心血管系事象の発現リスクを十分に理解した上で、適用患者を選択する」などと記載させただけ。

心血管系のリスクを抱えた患者を禁忌の対象にするなどの明確な安全対策をとらず、製薬企業が「適正使用のお願い」を配布したのみで、販売が続けられています。

市販直後調査報告書の最終版によると、市販後半年間の薬との因果関係が否定できない副作用報告は1626例2269件、うち重篤な副作用は190例244件に上っています。この間の使用推定患者が42000人ということですから、重篤な副作用の発生頻度はこの薬を処方された約220人に1人ということになります。

ゾフルーザに続いて市販後調査のシグナルは活用されず

市販直後調査は、新薬の販売開始直後に副作用で15人が亡くなったソリブジン事件(1993年)を教訓として設けられた制度で、指定された薬は製薬企業に、市販後6か月間医療機関を頻回に訪問し適正使用を促すとともに副作用症例を迅速に把握するよう義務付けています。

少数の限られた被験者で行う臨床試験の段階ではわからなかった薬の有害事象を早期に把握して、安全対策に生かすことを目的としていますが、そこで示されていたことが安全対策に生かされていないということになります。

本ブログでは、前回、抗インフルエンザ薬のゾフルーザの副作用とみられる症状で2019/20シーズンに37人が死亡していることが報告されているのに、厚生労働省が「薬と死亡との因果関係が評価できない」などとして的確な安全対策を怠っている問題を指摘しましたが、厚生労働省はイベニティに対しても同様の問題のある対応をしています。

米国や欧州では厳しい警告

この問題を指摘した東京脳神経センターの川口浩整形外科・脊椎外科部長の論文が、Journal of Bone and Mineral Researchの2020年4月1日オンライン版に掲載されています。

川口医師の論文の要旨は以下のとおりです。

イベニティは、骨の細胞内で「Wntシグナル」という経路を活性化させ、骨形成を促進する画期的な骨粗鬆症治療薬として国際的に注目されている。

しかし米国食品医薬品局(FDA)、欧州医薬品庁(EMA)は、第3相国際共同試験(ARCH試験)で、イベニティによって心筋梗塞や脳卒中などの重症心血管系の副作用が増加していることに懸念を示し、承認を見送った。

ところが日本の規制当局は2018年12月、世界に先駆けて承認。2019年3月より日本の医療現場でイベニティは使われ始めた。

懸念された通り、国内発売直後の3か月で、死亡3例を含む重症心血管系副作用11例が報告された。その後、この副作用報告は加速度的に増加し、市販後6か月間では、「死亡16例」に達した。この数は、類似の骨粗鬆症治療薬であるフォルテオ(6か月で死亡1例)およびテリボン(同2例)に比べても突出して多い。

FDAはその後2019年4月イベニティを承認した。しかし日本と異なり本剤を1年以内に心筋梗塞または脳卒中を起こした患者には用いないことを黒枠で警告した

欧州EMAも2019年10月、本剤を心筋梗塞または脳卒中の既往のある患者には用いないことを厳しく警告することで承認を推奨した。

日本では、2019年9月になって添付文書に「警告」が加えられたが、その内容は「本剤との関連性は明確ではないが、重篤な心血管系事象を発現し死亡に至った症例も報告されている。本剤の投与にあたっては、骨折抑制のベネフィットと心血管系事象の発現リスクを十分に理解した上で、適用患者を選択すること」という曖昧な表現であり、米国FDAや欧州EMAのように「心血管系疾患の既往のある患者さんに処方禁止」という具体的な指示にはなっていない。米国や欧州のように厳しく警告されていれば、避けることのできた重篤な副作用と死亡があった可能性がある。

これらの日本のデータは世界で最初の市販後調査のデータであり、世界中の国々でこのデータを共有すべきであるにもかかわらず、そうなっていない。

イベニティは世界のどこにおいても心筋梗塞や脳卒中の既往のある患者には用いないという明確な処方禁止 (禁忌)が必要である。

急ぎすぎる承認審査にも問題

イベニティの副作用は、その後も2019年11月までの発売後8か月間で死亡症例報告が25人まで増えています。

イベニティは、米国で先に申請されていましたが、日本がそれを追い抜いて「世界に先駆けて」承認した医薬品です。

承認審査の段階で既に示されていた危険性を軽視して、「新しい作用機序」の医薬品を「世界に先駆けて日本が承認」することを急ぎ、加えて、市販前のシグナル(未知の副作用の因果関係を示す情報で十分な検証可能性があるもの)を市販後の安全対策に生かさず、多数の死亡者を出したという点では、抗がん剤イレッサの例と同様です。

先駆け審査指定制度の下で承認された前記のゾフルーザも、急ぎすぎる承認の問題点を示しています。

迅速承認は「患者の利益」のためだと説明されることがありますが、製薬企業や規制当局は、患者が求めているのは、有効性と安全性が確認された医薬品だということを忘れないでほしいと思います。 


参考資料

イベニティ 市販直後調査報告書

https://amn.astellas.jp/jp/di/list/evn/im/im_200318161030333.pdf

2019年11月までの副作用データ:アステラス・アムジェン・バイオファーマ(株)安全性情報部・アステラス製薬(株)ファーマコビジランス部,2020年1月14日イベニティ皮下注105mgシリンジ国内副作用報告の集積状況(収集期間2019年3月4日~2019年11月7日)

https://amn.astellas.jp/jp/di/list/evn/im/im_200111040605211.pdf

Hiroshi Kawaguchi, Serious Adverse Events With Romosozumab Use in Japanese Patients: Need for Clear Formulation of Contraindications Worldwide,April 2020

https://doi.org/10.1002/jbmr.4001
https://asbmr.onlinelibrary.wiley.com/doi/full/10.1002/jbmr.4001

薬害オンブズパースン会議,ゾフルーザと先駆け審査指定制度に関する再要望書
http://www.yakugai.gr.jp/topics/file/zofluza_sakigakeshinsa_saiyoubousho.pdf
薬害オンブズパースン会議,ゾフルーザと先駆け審査指定制度に関する要望書
http://www.yakugai.gr.jp/topics/file/zofluza_sakigakeshinsa_youbousho.pdf